「踊り場」とは、長く続く階段や曲がる階段の途中に少し広く場所をとった部分のことである。
この言葉はダンスの界隈でもしばしば借用・転用されるが、その語源には色々な説がある。
英語でこれは「landing」であって決して「dancing space」ではない。
「踊り場」というのは日本人の考えた言葉であるようだ。
まずよく言われるのは明治以降に日本に導入された西洋建築で用いられるその場所を裾の長いドレスをまとった女性が歩くと踊っているように見えるところからそのように呼ばれるようになったという説がある。
もうひとつは京都の芸者さんが階段を昇った先の良く見える板間の上で実際に踊りを披露していたことからその場所を「踊り場」と呼ぶようになったという説がある。
『6steps』は文字通り6段の階段であって「踊り場」は付属していない。
「踊り場」のない階段で踊るダンスである。
普通に昇降したのではそれを見た人にも踊っているようには見えないかもしれない。
そして実は「階段」という言葉も江戸時代以前の日本には存在しない。
当時は一般の住居は基本的に平屋であってそもそも「階段」が必要とされていなかった。
「階(きざはし)」という段差を表す概念は平安時代ごろからあったようだが、城や宿の階層建築における上下移動の構造は「梯子」や「梯子段」と呼ばれるもので「階段」の文字は出てこない。
山道や古い街並みに石段を見かけることはしばしばあるが、それらは往々にして「〇〇坂」と呼ばれている。
つまり江戸時代までは「階段」と「坂」にも区別の必要がなかった。
それがどうして「階段」と別の呼び方をするようになったのかを考えると、一つ思い浮かぶのは自動車の普及である。
「坂」は車でも昇降できるが、「階段」は通常の車では昇降できない。
車移動する人と歩行移動する人の道案内において「坂」と「階段」の区別の認識はとても重要なものであることは想像に易い。
ここでかつて利便性を求めて作ったもの(階段)が新しく利便性を求めて作ったもの(車)を妨げるという関係が生まれている。
それは以前にも書いた通り、「階段」が車いすや杖を使って移動する人の妨げとなることにもつながって考えられる。
つまり発生の段階で「階段」という言葉は「人が自らの足で昇らなければならないもの」という意味をはらんでいたということになる。
それに気づくとちょっと興味深くならないだろうか。